人気ブログランキング | 話題のタグを見る

平谷美樹の歌詠川通信

utayomigaw.exblog.jp
ブログトップ

作品紹介・その6 『エンデュミオン エンデュミオン』

作品紹介・その6 『エンデュミオン エンデュミオン』_b0150390_15482818.jpg
2000年6月、角川春樹事務所(ハルキ・ノベルス)から発行された作家・平谷美樹のプロデビュー作である。
前年に募集された《第一回角川春樹小説賞》の最終選考に残り、加筆・訂正を経て出版された。

羊飼いの少年エンデュミオンに恋をした月神セレネが、彼の美と若さを保つために永遠の眠りを与えた――というギリシャ神話のエピソードが本作の発想の元になっている。
月は神の座ではなく、豊富な資源の塊であることに気付いてしまった人類。
科学の発展と共に、人類から見捨てられようとしている神々。
地球と月を舞台に、膨大な数の登場人物たちが様々な視点から語るこの物語は、今読み返すと確かに“詰め込みすぎ”の観は否めない。
しかし、この膨大な登場人物たちひとりひとりが、それぞれの個性を持ってきちんと描き分けられているので、物語自体に混乱はない。
文体は、翻訳小説の影響が強く、饒舌である。文章力はあるが、エンターティメント小説の必要条件である“読みやすさ”からはやや離れている。
デビュー作ゆえの短所は幾つも目に付く。
だが、たったひとつのアイディアから原稿用紙1000枚を越える物語を生み出すストーリー・テラーとしての能力は、今と比べても遜色はない。
「デビュー作には、その作家の全てが詰まっている」と言われるが、まさにその通りである。

※本作は現在、中古品のみ入手可能。
(角川春樹事務所には在庫があるかもしれません)

〈文・管理人M〉
by y-hiraya | 2008-07-16 15:50 | 作品紹介