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平谷美樹の歌詠川通信

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「ヴァンパイア――真紅の鏡像」角川春樹事務所刊

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「ヴァンパイア――真紅の鏡像」は20数年前に書き始めた小説でした。
まだアマチュアの頃です。
第2部の途中まで書いて、中断していたものでした。
かなりハードな性描写が必要な物語でしたので、プロになった後も教師という
立場上、執筆を続けずにいたものでした。
2007年の4月に、ぼくは教師を辞めました。
心臓病がその理由で、けっして辞めたくて辞めたわけではありませんでした。
美術教育の新しいノウハウの研究をしていましたから、
それを中断するのは悔しかったです。
しかし、病気なのですからどうしようもありません。
で、「教師であったうちは書けない小説を書くチャンスじゃないか」と、
自分をプラス方向に鼓舞しました。
そして、「ヴァンパイア――真紅の鏡像」を執筆することになったのです。

本書には随所に仕掛けがあります(笑)
浅く読んでもそれなりに面白くなるように構成しましたが、
深読みすればニンマリする場面が沢山隠されています。
一例が、性描写。
ネットの感想などを読むと賛否両論(笑)
「読者サービス」と書いているものも多く目にしました。
「女性にはお勧めしない」というものも(笑)
しかし、本書に書かれている性描写はそれほど過激な物ではありません。
《望んでいないのに無理矢理》というシチュエーションは確かに多いのですが、
行為そのものは極めて普通です。それを克明に描写しているだけ。
性体験のない方には刺激が強すぎるでしょうが、
性体験のある方ならば別段どうということもない行為が描かれているだけです。
ぼくが性描写を書くにあたって考えたことは2つ。

1.全ての虚飾を排除して、行為そのものを描写すること。
2.扇情的なセリフは一切排除すること。

1.は、人間が「理性」という幻の能力で飾り立てた性行為の崇高さをはぎ取って、
生身の衝動を描くことを主眼におきました。
いくら美しくとらえたいと思っても、セックスはしょせんセックスにしかすぎないということです。
性行為に崇高な意味を見いだそうとしている方は特に、嫌悪感、忌避感を抱くでしょう。
本書の性描写は、獣と同じ分自身の姿が映し出された「鏡」となっているのです。
2.は、読者の性欲をかき立てるための描写ではないというサインとして使いました。
純粋に読者の性欲をかきたてるための文章というものも作家としてはとても魅力的な素材で、書いてみたいのですが、今回はそういう目的の小説ではなかったのでセリフを抜きました。

原稿用紙で1400枚ほどの作品で、本は分厚く、二段組で文字も小さいですが、読むたびに表情を変える小説ですので、何度か読み返していただければその度に楽しんでいただけると思います。

次は、長い小説繋がりで、「ヴァンパイア――真紅の鏡像」が出る前は一番長かった、

「約束の地」  角川春樹事務所刊
でいきますか。
by y-hiraya | 2009-01-02 23:27 | 作品の召し上がり方